自然が生みだしたすばらしいシルエットで泳ぐ色とりどりの魚たち、愛らしいイルカやペンギン・オットセイたちが迎えてくれる、水族館。
世界中からさまざまな生きものたちが集まっていて、忙しい日常を過ごす私たちに癒しや潤いを与えてくれる魅力的な空間ですよね。
そんな「非日常」体験をプレゼントしてくれる場所で、実は多くの生きものたちを保全する取り組みが進められています。
ここでは、ぜひ知っておきたい「水族館で進めている保全の取り組み」についてご紹介します!
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実は世界でトップクラス!日本のフンボルトペンギン飼育&繁殖スキル
「わあ、かわいいー!!」どの水族館でもペンギンの展示場は、いつも歓声と笑顔がいっぱい! ある有名な企業の調査によると、日本人の好きな動物は第1位が犬、第2位は猫、そして第3位がペンギンなんですって!
2本脚でヨチヨチと歩く姿や、プールを気持ちよさそうに泳ぐ様子は、癒し効果120%で、人気があるのもよくわかります。 地球上には18種類のペンギンの仲間が存在し、そのうち日本の水族館でよく見かけるのは「フンボルトペンギン」という名前のペンギンです。
日本に初めてペンギンがやってきたのは今から約60年前のこと。 当時、日本から南極へ赴いた調査隊が「戦後の子どもたちに夢や希望を与え、喜ばせたい!」という思いで数種類のペンギンを日本に連れて帰ってきたのが、水族館でのペンギン飼育の始まりといわれています。
試行錯誤を重ねながら長い時間をかけて飼育繁殖技術を向上させた結果、日本は世界でトップのペンギン大国となりました。今では国内の水族館90ヶ所で飼育され、その数なんと4176羽にもなります(2016年IUCN調べ)。
フンボルトペンギンは南米チリの沿岸地が主な生息地で、世界最大の繁殖地「フンボルトペンギン特別保護区・チリ国立サンディエゴメトロポリタン公園」がありますが、ここからも日本の飼育繁殖技術は評価を受けています。
その中でも下関市立しものせき水族館「海響館」の実績は高評価を受け、なんと世界で唯一「生息域外重要繁殖地」(野生の繁殖地以外で重要な繁殖地)として位置付けられています。
フグとペンギンの展示が高評価!山口「市立しものせき水族館 海響館」の知っ得情報「生息域外重要繁殖地」とは、実際の生息地(生息域内)以外…、例えば動物園や水族館、保護センターなどの別のエリアで、その生きものの種が十分に繁殖できる環境が整えられていると認められ、絶滅のおそれからその生きものを救うために重要な地と指定されたということです。
海響館のペンギン飼育場はチリの生息地が再現できるよう工夫されています。実際の生息地らしい波を人工的にプールに作り出し、更に岩場も設けました。 また現地に生えていて巣材にできる植物も植えて、ペンギンたちが野生下と同じように食いちぎって巣穴に持って行けるようにしました。
そんな小さな工夫を積み重ねた結果、海響館のフンボルトペンギンたちは繁殖数も増え安定した個体群が維持されています。
ペンギンたちには、ちゃんと「戸籍」がある!
実はフンボルトペンギン、現在絶滅のおそれが非常に高い生きものの1種となっています。
日本の水族館および動物園では人間の戸籍管理にあたる「血統登録」を国内にいる全てのフンボルトペンギンに実施し、東京都にある多摩動物園が「血統登録担当園」として、全体の管理を任されています。
毎年生まれる個体、そして亡くなる個体のデータを全国の水族館にいるフンボルトペンギン飼育担当者から収集し、台帳の記録を正確に進めます。また繁殖に必要なペアリングの管理(近親交配を避けるなど)も行い、園館どうしの調整にも協力して適切な遺伝子管理も行っているのです。
水族館はただ飼育して、展示しているのではなく、「フンボルトペンギン」という生きものの「種」として保全を進めるため、日々飼育と繁殖技術の向上に努力しているのですね!
ちなみに、生まれたて(ふ化したて)のフンボルトペンギンは、手のひらにおさまるほどの小さな「輝く命」です。まだ目も開かず、立ち上がることもできずに「ピィピィ」と鳴く姿は、「可愛い」の言葉ではおさまりません!
もう、神々しくて、涙が出そうなほどの愛しさを感じます。そんなヒナたちが育ち、そしてまた親となっていく、命のサイクルが、ここ日本の水族館でずっと続いているのです。
他にも、こんな生きものが血統登録されています
フンボルトペンギン以外でも多くの生きものが絶滅の危機にあり、血統登録管理が行われています。
日本では現在約150種類の生きものが対象となっていて、それぞれに責任を持って血統管理を行う動物園または水族館が決まっています。
ここでいくつかご紹介しましょう。
【魚類】
ミヤコタナゴ … 井の頭自然文化園(東京都)
ハリヨ … 世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ(岐阜県)
ニッポンバラタナゴ … 滋賀県立琵琶湖博物館(滋賀県)
スイゲンゼニタナゴ … 姫路市立水族館(兵庫県)
ネコギギ … 志摩マリンランド(三重県)
ムサシトミヨ … さいたま水族館(埼玉県)
ゼニタナゴ … アクアマリンふくしま(福島県)
シナイモツゴ … 新潟市水族館マリンピア日本海
アカメ … 虹の森公園おさかな館(愛媛県)
カワバタモロコ … 碧南海浜水族館(愛知県)
ホトケドジョウ … 神戸市立須磨海浜水族園(兵庫県)
【両生類】
オオサンショウウオ … 広島市安佐動物公園(広島)
【は虫類】
インドガビアル … 熱川バナナワニ園(静岡県)
【鳥類】
オウサマペンギン … アドベンチャーワールド(和歌山県)
アデリーペンギン … 名古屋港水族館(愛知県)
【哺乳類】
ホッキョクグマ … 旭川市旭山動物園(北海道)
ラッコ … 鳥羽水族館(三重県)
カリフォルニアアシカ … 京急油壺マリンパーク(神奈川県)
トド … おたる水族館(北海道)
ゴマフアザラシ … 新江ノ島水族館(神奈川県)
セイウチ … 鴨川シーワールド(千葉県)
バンドウイルカ … 鴨川シーワールド
スナメリ … 宮島水族館みやじマリン(広島県)
カマイルカ … 沖縄美ら海水族館(沖縄県)
まとめ
いかがでしたか?生きものたちを絶滅の危機から救うために、各地の水族館スタッフ正確な情報を共有し、責任を持って生きものたちの飼育繁殖を進め血統管理を行っていることがお分かりいただけたでしょうか。
血統管理の他にも、水族館ではさまざまな形で保全への取り組みが行われています。 こうした保全の取り組みが実を結ぶためには、水族館を訪れるみなさんが生きものに興味を持ち、生息地や飼育下での現状について考えたり、行動すること…、これが大切なポイントなのです!
例えば…、みなさんのお住まいの地域にはどんなお魚がいますか?もしかしたら、「いたけど、もう見かけなくなったなあ」というお魚がいるかもしれません。
日本の身近な生きものたちについて、地元のみなさんからの情報も保全活動にはとても大切です。水族館の力だけでは、生きものを絶滅から救うことができません。やはり、できるだけ多くのみなさんの理解や協力、情報提供が必要なのです。
今度遊びに行く水族館や地元の水族館では、どんな保全の取り組みが行われているでしょう?ぜひ、そういった角度からも見学してみてくださいね。水族館の新たな一面が見えてくるかもしれません。